井戸といえば、小学校のころ住んでいた目黒の家を思い出す。目黒区最西部の駒沢に近いところにあったその家には井戸があった。家自体は大正時代に建てられたものだったが、同じように古ぼけた納屋が付属し、その一角に手押しポンプの井戸があった。当然使われなくなって久しいものだったから涸れ井戸状態だったが、あるとき隣に住んでいた同級生とその井戸に挑戦した。

 呼び水なんていうことは知識にあったから、バケツで水を注ぎながら交代でポンプで汲み出そうとするが、スカスカでまったく手ごたえがない。1時間とかそれ以上ひたすら続けるうち、急に手ごたえがあって赤い水が流れ出た。二人とも大喜びだったのはいうまでもない。田中君というその同級生は、背が高くてやせていたところから、担任の先生から「でんちゅう」と命名されていた。いつも遅刻仲間だったが彼も還暦だ、どうしているんだろう。



 思わず昔のことを思い出してしまったが、色々調べてみると井戸を自分で掘ってしまう人も多いらしい。中でも、曾我部さんという方が考案した井戸掘り機 が有名らしい。理屈で考えると厄介なものではなく、たとえば螺旋形の歯を地中に向けて回転させ、掘り出した土を取り除き、穴の開いたパイプを入れて壁を確保する、つまり地下鉄などのトンネルを掘るときのシールドマシンの超小型版を考えればいいのだろう。そんなことを調べたり考えたりしていたら、古くなった井戸ポンプの修理方法も見つかった。それを見ていると、どうも井戸が涸れていたというよりは、ポンプのピストンの部分の機密性に問題があったのではないかと思う。まあ、今頃わかっても仕方ないんだが。



 古井戸の状態を見て、自分で掘ってみることも考えてみよう。