HP(ヒューレットパッカード)という会社は、DECやそれを買収したコンパックといったPCメーカーを吸収しながらNo.1のパソコンメーカーになったのだが、大昔にとてもユニークな電卓を作って一世を風靡していたことを知っている方は少ないだろう。もっとも、そうしたものに興味を持つ人自体が少なかったから、なおさらそうであった。30年以上も昔だが、当時の給料1か月分以上をつぎ込んでHP 25というプログラミング機能の付いた関数電卓を買った私はその魔力にやられた一人だった。
 優れた点は二つあった。一つはプログラム可能であったこと、まだいわゆるパソコンやその前身のマイコンも世に出ていない時代、あるものといえば電光管表示で電話機の4倍ほどもある電卓くらい、計算尺・そろばんやタイガー計算機もあった時代である。手のひらに載る機械でプログラムができるというのは脅威以外の何物でもなかった。
 もう一つの優れた点は「逆ポーランド」という計算手順である。これはなかなか説明が難しいのだが、4個のレジスター(一種のメモリー)に数を入れ、そのうちの二つの間で計算させる演算子(+や÷、関数など)を入れて答を出すものだ。レジスターの中身は数の入力や演算によって奥に運ばれたり、手前に出てきたり、(スタックと呼ばれている仕組み)、( )のある計算式でも全く問題なく先頭から入れて行けるし、途中経過も随時確認できる。そんな雰囲気は次のHPでよくわかる、まったく同感である。
 
      ユーザーインターフェースの深いところ(前編)
      ユーザーインターフェースの深いところ(後編)
 
 ただ、だれでも使えるかというとそうでもないらしい。頭の中にスタックが入っていて、電卓の操作と同時にデータの動きを把握できる、といった変わった能力を身に着けられなければ、実に厄介な代物になるらしい。わたしも、30数年前の若い時の経験がなければ、これは無理と投げ出したんじゃないかと思う。
 
 プログラミング可能ということも、私にとってはとても大きな経験とメリットになった。私は工学系の人間だったがいわゆるコンピュータについては専門外だった。まあ、この分野も経歴や出身で専門が決まるというものでもないが、わずか48ステップという限界の中で色々なプログラムを作るという修練はとても役に立った。ちょうどこれを買ったころ、国内のビジネススクールに1年ほど留学していたのだが、そこでの勉強に実はこれが活躍した。金融計算などである。それから、アメリカのGEのネットワークを人工衛星経由で使ってコンピュータのソフトを作り、それを動かすという課題もあったが、その基礎作りにも役に立ったのだと思う。そこから仕事場に戻ったころはちょうどPCが企業に入り始めるころだったが、いまのようなソフトはほとんどなかったものだから、表計算のソフトとデータベースのソフトを作ったりしたのだが、そんなことを思い起こすと、私にとってHP 25という電卓はとても大きな存在だった。
 前置きが長かったが、なにげなくamazon を漂流していて、数年前に35年前の電卓の復古版が出ていたこと、それが今でも買えることが判明した。HP 35sというものだが、なんだかとても懐かしくて即購入した。あまり調べないで買ったしとても安かったから、単なる関数電卓と思っていたら、プログラミングの能力も相当すごいものだった。PCとは異なり、科学技術計算に特化してはいるが、農業土木や水理の計算には使えると思っている。しかし、何よりも昔の雰囲気を持ったこのHPの電卓、持っているだけでうれしいというものだ。共鳴する人はなかなかいるとは思えないが、こんなものをみつけて買ったぞ、ということを大声で言いたい気分である。

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